2024 11,23 06:37 |
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2015 11,16 04:55 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.020 2015.11.16号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ いつもこのコラムでは声に関連して筆者が気になったことを書いていますが、今号はキリのいい創刊20号ですので、特別篇ということでちょっと趣向を変えて、なぜ筆者が発声研究を始めたか、という話を書いてみたいと思います。 それは今を去ること十数年前、Sさん(仮名)から始まりました。 Sさん(仮名)は脳梗塞になり私の勤める病院に入院しました。 脳梗塞になったすぐのころは多量のたんが出ることがあります。たんがあまり多いと窒息の危険があります。 窒息は防がねばなりません。 対策として気管切開、つまり喉に穴を開ける方法があります。そして気管カニューレという管を通します。それで呼吸をしやすくするのです。 Sさん(仮名)もたんがかなり多く気管切開をしていました。気管切開をしていると声は出ません。声は息が通って声帯を震わせると出ますが、気管切開の穴は声帯のすぐ下に開けます。 声帯に行く前に息が外へ出てしまうので声は出ないのです。 しかし気管カニューレに栓をして穴をふさぐと声は出ます。気管カニューレには栓を取り付けられるタイプのものがあります。気管切開していてもこれを使えば声が出ます。 ところがSさん(仮名)さんはスピーチカニューレを使っても声がうまく出ませんでした。それで困った主治医が私のところに依頼してきたのです。 どういうことかと私はSさん(仮名)のところに行きました。そして早速気管カニューレにスピーチバルブをとりつけ声を出してもらいました。 「あ”っ、あ”っ、あ”・・・」 声がわずかにしか出ません。しかもしぼり出すようで苦しそう。そしてすぐに血中酸素濃度が下がってきました。呼吸ができていないサインです。急いでスピーチバルブをはずしました。 Sさん(仮名)が脳梗塞を起こした場所は小脳です。小脳は身体を動かすときに各部がスムーズに動くよう調整するところです。 小脳がやられると細かい運動などが特に難しくなります。力加減もうまくいかなくなります。 発声も運動のひとつです。声帯が微妙な隙間を残して閉じ、そこに息が通ると声が出ます。Sさん(仮名)はこの微妙な隙間を残すことができず、声帯を思いっきり閉じてしまうのです。 そこで無理に声を出すとこのようになります。息をすることもできないのです。発声運動の微妙な調節ができないからです。 さてどうするか。 その頃私は声にはあまり詳しくありませんでした。声の問題を扱うチャンスがあまりなかったのです。 病院勤めとしての経験的にはベテランでしたが、このようなケースはみたことがありませんでした。 通常、声帯に過度に力が入って声がうまく出せない場合には軟起声発声という発声法を使います。あくびーため息法などがその代表です。 つまりため息をつくように「はあ~」と声を出すと喉に力が入らないのです。ここから始めて徐々に力を抜いた声の感じを覚えてもらいます。嘘みたいですが結構効果もあるのです。 しかしSさん(仮名)はため息どころか息も吐けません。息を吐こうとするだけで「あ”っ、あ”・・・」となってしまいます。どんなに力を抜いてと言ってもだめなのです。すぐに呼吸困難を起こしてしまいます。 なんとか喉の力が抜けないかと思い、首のストレッチや喉のマッサージなどもしました。しかしさっぱり効果は上がりません。 Sさん(仮名)さんは柔和な顔立ちをしています。うまくいかないたび柔和な顔を曇らせました。小脳の梗塞というのは運動が難しいだけで頭の中ははっきりしているのです。 練習が徒労に終わる日々は続きました。Sさん(仮名)は悲しそうでした。 このまま終わらせるわけにはいきません。悲しそうなSさん(仮名)をそのままにできるでしょうか。私がなんとかしなければ何も変わらないのです。 私はとにかく文献をあさることにしました。本やら資料やらを大量にひっくりかえしました。 その結果、使えそうな方法としては、指圧法、咀嚼法、開口法、舌突出法などがありそうでした。 指圧法は喉を指で押し下げながら声を出させる方法、咀嚼法は口をもぐもぐさせながら声を出させる方法、開口法は口を大きく開けながら声を出させる方法、舌突出法は舌を出して声を出させる方法です。 私は少しがっかりしました。これだけ調べたのにこれという決め手の方法はみつからず、あまり大したことのなさそうな方法しか出てこなかったからです。 しかし私はワラをもつかむ心境です。とにかく片っ端から試してみることにしました。 この後、やはり危惧した通りすんなりとは行かなかったのですが、そこで私は声の不思議を思い知ることになるのです。(続く) PR |
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