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2015 12,07 06:15 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.021 2015.12.07号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 今を去ること十数年前、当時の私は発声に関する知識も経験も乏しい状態でした。 でもなんとかSさん(仮名)の声を出させたい、なんとかしてSさん(仮名)の喉の力を抜かせたい。ワラをも掴む思いの試行錯誤が始まりました。 まず試したのは指圧法です。喉を指で押し下げると喉の構造上声帯がゆるみます。これは知識の乏しい私にもわかりやすい納得のいく方法でした。 しかし色々何度となくやってみましたが、全く効果はありませんでした。 次の選択肢、咀嚼法では口をもぐもぐさせながら声を出さなばなりません。普通でも慣れないとやりにくそうな方法です。ちょっとやってみましたがSさん(仮名)は喉だけでなく首から口全体に力が入ってしまいました。実施は難しそうでした。これは断念しました。 残るは開口法か舌突出法です。 開口法は口を大きく開けながら声を出させる方法、舌突出法は舌を出して声を出させる方法です。どちらもやり方としては単純な方法です。 仕組みとしては、口をだらんと大きく開けたり、舌をだらんと出したりすれば力が抜けた感じになるので、ついでに繋がっている喉も力が抜ける、というものです。 なんだか嘘っぽい、こんなもので効くのか、と私は半信半疑でした。しかしワラでもなんでもとにかく掴まねばなりません。 まず開口法をやってみました。実施はとても容易でした。なにしろ口を大きく開けさせるだけなのです。 しかし残念ながら特に効果はありませんでした。口を大きく開いても声は相変わらず「あ”っ、あ”・・・」でした。 続けて舌突出法をやってみました。やってみるとまず舌を出し続けることが難しいのでした。Sさん(仮名)は舌は出せます。 しかし声を出そうとすると引っ込んでしまうのです。喉に力が入ると自然に舌にも力が入ってしまうようでした。 そこで舌が引っ込まないよう押さえておくことにしました。舌鉗子というトングのような器具を使って舌をずっと引っ張っておくのです。そして声を出させました。 果たして声が少しだけ出やすくなったような気がしました。私は当面これを続けることにしました。 Sさんはそのうちにこの方法に慣れてきて、舌鉗子を使わなくとも舌を出して声を少しだけ出せるようになりました。 しかしそこからなかなか変わってきません。もうひと押しが足りないのです。 私は医学専門書だけでなく声楽の専門書も探してみることにしました。専門書に声の訓練法は声楽のテクニックを応用している、と書いてあったからです。 ネットで探してみるといろいろ出てきました。といっても精神論とかイメージ重視の発声法では使えません。あまり医学的に根拠のない理論でも困ります。 中でよさそうな一冊の本が目に留まりました。荻野仁志・後野仁彦共著「医師と声楽家が解き明かす発声のメカニズム」(音楽之友社)です。 著者は医師と声楽家のようです。2,400円とちょっと高めでしたが注文してみました。 2〜3日して届いた包みを開けたときは少しがっかりしました。ずいぶん薄い本だったからです。これで2,400円はどうなのか、と。しかしとにかく読んでみました。 すると驚くなかれ、実は内容は良かったのです。本の大半が図版と写真です。発声の仕組みを図版と写真をこれでもかというくらい使って説明してありました。 これだけでも私にはありがたかったのですが、さらにプロの発声と素人の発声の違いをMRIを使って比較してありました。実にわかりやすい本でした。 そしてひときわ目を引いたのは「第5章 喉詰め発声から抜け出す方法」と「第7章 私たちの提案する声の作り方1」でした。 喉詰め発声とは要するに緊張した声です。すなわち度合いは違うがSさん(仮名)のような声です。 喉詰め発声では喉が全体に上にあがります。喉詰めを防ぐには喉を下げて声を出させれば良いのです。 しかし喉を下げて声を出すことは簡単にはできません。普通でも声を出すと喉は少し上にあがってしまうのです。 そこでこの本では口を大きく斜め後方に開け声を出す方法を推奨していました。それで喉が上がらずにすむことをMRI図で示していました。 開口法は開けるだけでしたが、これはそれを少し変えています。いわば開口法のバリエーションといえそうです。 早速Sさん(仮名)に実践してみました。口を大きく開かせ、私が顎を斜め後方に押しながら声を出させてみました。すると声が少し出やすくなったようでした。 もうひと押しです。私はこれにこれまで行ってきた舌突出法を組み合わせてみました。すると劇的なことが起こったのです。 いきなりきれいな「あ~~」という声が出たのです。これまでどんなにやってもほとんどだめだったのに、です。 それは本当に見事な声でした。 その時、私はびっくりしましたが、Sさん(仮名)もびっくりしたようでした。そして嬉しそうに笑ったのです。私がSさんの笑顔をみたのは恥ずかしながらその時が初めてでした。 好々爺のように柔和な顔になったSさんを見て、私は諦めなくて良かった、としみじみ思いました。 そして同時に、この不思議な声というものをもっと知りたい、もっと声のことに詳しくなって声の問題を解決できるようになりたい、そう強く思いました。 これが私が発声研究を始めたきっかけです。もう十数年前のことになります。昨日のことのように想い出されます。 それは今思い返してみても私のエポック・メイキングになった瞬間だったと思います。 PR |
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