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2016 04,18 09:05 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.030 2016.04.18号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 今回は30号とキリ番ですので、また思い出話を書こうと思います。暇つぶしに読んでいただければ幸いです。時系列としては20・21号のコラムで書いたエピソードの後になります。 声についての知識も経験も乏しかった当時の私でしたが、試行錯誤の末、劇的に声が出るようになったSさんというケースを経験しました。 このエピソードを経て、私は声というものは不思議だ、そして、もっと声について知りたい、もっと声に詳しくなって声の問題を解決できるようになりたい、そう強く思うようになりました。 そう意識を変えて改めて周りを見てみると、私の勤めている病院には、声が出なかったり、声に問題がある患者さんが随分いることに気づきました。 当時私の勤めていたところは高齢者医療を専門的に行う研究機関も兼ねた病院であり、認知症を伴うような方を含め高齢者が非常に多かったのです。 こんなに声に問題がある方がいたなんて・・・。一体自分は今まで何を見ていたのだろう、と愕然としました。 とりあえず数人の方に発声トレーニングを試みてみました。内容は教科書的なことの見よう見まねです。 しかしいかんせん、思うように声はよくなりませんでした。少し良くなって行き詰まってしまったり、全く変わらなかったり、そもそも行ってくれなかったり。 Sさんに行ったような工夫も何の効果もありませんでした。手も足もでませんでした。 こりゃあダメだ・・・と私は思いました。声をよくするには、声の問題の原因がどこにあるのか突き止めるのが第一。 その上で原因を取り除くか、別の方法で補うようにすると良いだろうと考えていたのですが、そもそも声の問題の原因がどこにあるのかも皆目わかりませんでした。 そこをとばして闇雲にやってみたのですが、やっぱりダメだった、というわけです。 原因の見当がつかない理由は簡単で、私の声についての知識が本当に薄かったからです。なにしろ喉の筋肉には何があるのか、どうやって声が出るのかもうろ覚え状態でした。 これでは声の問題の原因がどこにあるのか突き止めるどころではありません。 自分でもここはちょっと曖昧だな、と思いながら学生時代おざなりにしていたツケが今頃回ってきたというわけです。 ここは一番正攻法で行くしかない、ということで、色々書店や図書館を巡り、これはという書籍は購入しました。 インターネットでも色々調べてみました。日本音声言語医学会が主催するセミナーにも参加しました。 ノートを作って自分になりにまとめ、わからないことは書き出し、わかった時点でノートに書き足していきました。日本音声言語医学会発行の聴覚判定ドリルDVDも繰り返しやりました。 そうこうするうちに知識は徐々についてきました。全く分からなかった状態から脱し、ようやく少しずつ分かるようになってきました。 しかしここでひとつ大きな問題がありました。それは発声指導の具体的な運び方がよくわからない、ということです。 プログラムは立てられるとして、どう声をかけたらいいのか、どんな言い方をしたらいいのか、どう始めてどう終わるのか、その具体的なことがよくわからなかったのです。 近県に見学に行けるような病院はありませんでした。つてもありませんでした。 こうなったら、と私は思いました。ボイス・トレーニング教室に潜り込むしかない、と。 (後編に続きます) PR |
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2016 04,04 06:39 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.029 2016.04.04号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 前にもちょっと書きましたが、声のことに興味を持って色々考えたり試したりして日々を過ごしているうちに、人の声を耳にするたびに声の質などが気になるようになりました。 そのうちさらに病が高じて、その人の喉頭がどんな状態になっているか、どの部分をどう動かしているか、自動的に頭にポワーンと思い浮かぶようになりました。 妙な習性が身についたものだと思います。 さてそうなると解剖的にみて、どの人の発声法がもっとも素晴らしいか、考えてしまうものですよね。 人それぞれあると思いますが、私がこれまで聴いた中で、他の追随を許さずトップと思われるのは故 藤山一郎さんです。これはもうダントツです。 youtubeなどでもたくさん動画が見られますから、一度ご覧になっていただけるとご参考になるでしょう。 https://m.youtube.com/watch?v=P-QUP13GAeA https://m.youtube.com/watch?v=MCdT05hLYFA とにかく発声が非常に安定しています。長いフレーズでも息が苦しそうな様子が全くない。余裕綽々です。 高音になると大抵の歌手は声帯や声道を締めすぎてしまい、声量が落ちてしまったり、くぐもってしまったり、かすれたりします。藤山さんはそれが全くありません。 高音でも声量は全然落ちません。相当な高音になっても、くぐもった感じにも全くなりません。実にストレートに地声と全く同じ声が出ています。 これは書くと簡単そうですが、実際藤山さんレベルにできる人はほとんどいません。 さらに音程の揺れも全くなく、スパッと目標の高音音程を出しています。しかもどんな音程でも息や雑音の混じらない綺麗な声を出しています。 声は非常に響きのある軟らかい声です。本当に完璧な発声法です。奇跡としか言いようがありません。 おそらく藤山さんは、声帯と喉頭周囲の筋肉のコントロールが恐ろしく巧みで、発声に際してピンポイントに声門閉鎖に関わる筋だけを収縮させることができたのだと思います。 そうでなければあのストレートな高音はだせないでしょう。もちろん口蓋帆挙筋や咽頭収縮筋、輪状甲状筋のコントロールも自在。 だからこそ口腔・咽頭腔を広げて声を存分に共鳴させたり、目標の音程をスパッと出せたりしたのでしょう。 さらに藤山さんは歌によってクルーナー唱法を用いていたとのこと。 クルーナー唱法とはマイクロフォン使用を前提として、声を張り上げず、滑らかに耳元でささやくように歌う唱法だそうです。 最初に確立したのはビング・クロスビーで、フランク・シナトラに受け継がれていったそうです。 代表的なものはビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」だそうですのでご参考まで。 https://m.youtube.com/watch?v=NF9FEtI4Li4 この唱法をも使いこなし、しかも長いフレーズでも安定して発声できるとは、クレバーであり、かつ呼吸筋のコントロールも自在であったことになります。 クレバーで声帯・喉頭周囲筋・呼吸筋全てのコントロールは完璧。藤山さんはどのようにしてその奇跡とも言える発声法を身につけられたのでしょうか。 そしてその発声法は無意識にできてしまったものなのでしょうか、自覚的に掴んだものなのでしょうか。 藤山一郎さんは明治44年生まれで、東京音楽学校(後の東京藝術大学音楽学部)を首席で卒業されているのだそうです。 おそらくその折に発声法のトレーニングを積まれたのでしょう。東京音楽学校の新しい歴史を作る逸材、といわれたそうです。 藤山さんはその後、傾いた実家の借金を返すために流行歌手として活躍したのそうですが、 時に「増永丈夫」の本名でクラシック音楽の声楽家・バリトン歌手としても活躍されたそうです。 オペラなどのクラシック曲の発声と流行歌の発声をバランスをとりながら模索し、正当な音楽技術と知的解釈をもって歌謡曲の詠唱に独自の境地を開拓した、 との功績により平成4年に国民栄誉賞を受賞しています。 そこからするとおそらく無自覚な天才性により身につけた、というよりは、自覚して使えるように身につけた、と思われます。 ただ晩年になっても全く衰えないその発声法の維持についてはやはり天賦の才としか言いようがありません。 藤山一郎さんが亡くなられてもう23年経ちます。まだ藤山さんを超える発声法の持ち主には寡聞にしてお目にかかれていません。 藤山さんは100年に1人のレベルの傑物なのでしょうか。藤山一郎さんレベルの奇跡の発声法が気になります。 |
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2016 03,21 15:06 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.028 2016.03.21号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ ドギーブレスが気になります。 ドギーブレスとはなんでしょう? 発声トレーニング法のひとつだそうですが、あまり聞いたことのない名称ですよね。 音声治療の教科書にも載っていません。これをやると声に張りが出て大きくなり、ビブラートもかけやすくなるとのことだそうです。 いったいどんなトレーニング方法なのでしょう。気になります。 ドギープレスは英語で書けばdogy breastで、日本語に訳すと犬式呼吸になります。つまり犬が暑い時にやっている呼吸方法のことなのだそうです。 やり方は口を楽に開けて、犬がするような感じで「ハッハッハッハ…」というような呼吸を行います。 これを1回に30秒から60秒程度、一日2から5セット行うようにするそうです。 バリエーションとして、「ハッハッハッハッ」と2拍で4回吐いて、3拍目で「ハッ!」と止め、4秒目で息を吸う。これを15セットというものもあるようです。 このトレーニングで横隔膜を鍛え、腹式呼吸のコツを得ることが出来る、簡単で気軽に行える方法とのことです。 これは運動学的に見ると、短い負荷運動を細かく繰り返していることになります。効果としては呼気筋の筋力および持続力の増強でしょう。 特にバリエーションの方はインターバルトレーニングに類すると考えられます。 持続負荷と間欠的負荷では後者がより効果的との報告(Yamazaki 2003)もありますので、確かに呼気筋の筋力がつき、声が大きくなるというのはありそうではあります。 ただ横隔膜を鍛えることができるかどうかは、やり方によるでしょう。横隔膜を使わなくともこのドギーブレスはできてしまいます。 腹式呼吸のコツを得られるかどうかも同じですね。単に「犬がするような感じで」では色々なやり方ができてしまいます。 腹式呼吸の習得が目的なのであれば、やはり理屈は知っておいた方がいいでしょう。 さらにビブラートがかけやすくなる、というこの場合のビブラートは呼気ビブラートですね。 ビブラートのかけ方は運動学的には3種類あると思いますが、呼気ビブラートは最も容易な方法です。これはその通りではあるでしょう。 ただ呼気ビブラートは簡単ですから、ドギーブレスで練習しなくとも習得はできると思います。こちらのコラムもぜひご覧ください。 http://physiexvoice.side-story.net/column/c003 ところで、やり方は違いますが当サイトにも間欠的負荷ブローイングという、同じ原理のトレーニング法があります。 http://physiexvoice.client.jp/kaisetsu25.html 個人的にはこの方が負荷がかかるのでトレーニングとしては効果が高いと思いますが、あくまで予想です。 一度実験的にデータをとってみると面白いかもしれません。ドギーブレスと間欠的負荷ブローイング、どちらが効果的か、気になります。 |
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2016 03,07 05:24 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.027 2016.03.07号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ テレビの海外ドラマや洋画の吹き替え声が気になります。 テレビでやる海外ドラマや洋画は日本語に吹き替えされていますよね。 あれって画面を観ていなくても、今放送されている番組が日本製なのか外国製の吹き替えなのか、ほんの数秒聞いているだけで分かってしまいます。 例えばセリフ回しだけとってみても私たちの通常の喋り言葉とは違うと感じます。 男性なら「〜ぜ」とか「〜かい?」、女性なら「〜わ」とか「〜だわ」など、特に語尾の部分が顕著に芝居掛かった口調になっています。 しかしそれだけでなく、声の調子も違っている気がします。何が違うんでしょうか? 気になります。 さて、吹き替え声を改めて聴いてみると、第一に目立つのは全体に早口だということです。その割に聞き取りにくくないのは、文の途中に長めに切れ目が入るからです。 ただその切れ目の位置と長さが、私たちの日常のしゃべり言葉とは違っているので、やや不自然に感じます。 例えば普通なら「手がかりがありましたよ」とすっと言うところが、「手ぇがかりが〜、ありましたよ」など。 これは、なにしろ原語の口の動きに吹き替えの声を合わせねばならないので、どうしてもリズムが早口に、そして切れ目を入れねばならないためなのでしょう。 同じくセリフの始めに「ん〜」とか「あ〜」という溜めが入ることも多いのですが、これは英語の芝居に「ア〜ンド...」とか「ウェ〜ル...」というセリフが文頭に多いためと思われます。 そしてやはり際立つのは、語頭から声が大きく、全体に抑揚が非常に激しいこと。テンションがずっと高いと言ってもいいかもしれません。 いわゆるオーバーな演技で、昔の大映ドラマを彷彿とさせます。 この理由については吹替愛好家の漫画家とり・みきさんが『吹替の帝王』というサイトで考察していらっしゃいます。 http://video.foxjapan.com/library/fukikae/specialcolumn04.html 第一に、息継ぎやタイミングなどが異なる吹き替えで日本語をナチュラルに合わせるのはそもそも難しいので、オーバーにアテることでセリフに勢いや説得力を持たせようとしたのではないか。 第二に、黎明期の小さくて解像度の悪いテレビ画面で、当時の日本人にとって顔の区別のつきにくい欧米人の芝居を見せるために、声優によるキャラクターのフレームアップが必要だったのではないか。 第三に、初期はごく少人数の声優でたくさんの登場人物の声をアテており、ほとんど一発録りだったため、よりはっきりしたキャラ付けが行われ、オーバーアクト気味になったのではないか。 第四に、「欧米人はジェスチャーがオーバー」というイメージから、少々ショーウィーな話し方のほうが外国のドラマっぽく、しっくりくる、と思われていたのではないか。 第五に、初期の声優は新劇出身者が多く、リアルさの表現として新劇的セリフ回しを吹き替えに応用し、それが定着したのではないか。 吹き替え声は芸人さんのネタにもなっています。つまり誰が聞いても吹き替えだとわかるパターンがあり、世間でも認知されていることになります。 ひとつの文化が成立するには様々な要因があって、偶然と必然の中で淘汰され定着していくと思われます。吹き替え声の成立過程も面白いものだと思います。 ただ今後はどうでしょうか。時代に応じて人々の感じ方は変わるものです。吹き替え声もナチュラルな方向性に移行していくか、わかりやすさがより求められていくか、興味深いところです。 吹き替え声の今後が気になります。 |
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2016 02,15 06:41 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.026 2016.02.15号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ よそ行き声が気になります。 改まった場面で話すとき、例えば電話に出たときなど、普段とはちょっと違ったいわゆるよそ行き声を出す人は多いですね。 側で聴いていても、急に変わるのでびっくりすることがありますし、電話で話したとき目当ての本人なのに誰が出たのか分からなかったりします。 よそ行き声とはそもそもどんな声なんでしょうか、どんな効果があるんでしょうか。気になります。 よそ行き声が使われる代表的場面といえば電話でしょうか。特に女性で目立つ印象があります。電話での女性のよそ行き声は、声が高くなる傾向が高いようです。 なぜ電話で話すときに声が高くなるのでしょうか。 その理由はいろいろ考えられます。 第一には相手に聴き取りやすく、という配慮からというもの。聴覚心理的にいうと高い音は低い音に比べて聴取者が聴き取りやすい傾向にあります。 電話などのこもって聴き取りにくい条件下や騒音下では声を高くした方がいい、という判断が意識的、あるいは無意識になされた結果高くなったという解釈です。 第二は緊張して声が高くなるというもの。電話は相手がどのような状況かわかりませんし、かかってきた電話は誰からか分からない場合もあります。 精神的な緊張は筋緊張をもたらし、喉頭で声帯が引き伸ばされて声が高くなった、という解釈です。 第三は相手に好感を持ってもらいたいという気持ちからというもの。ある調査によると、高い声の女性は低い声の女性よりも好感度を持たれやすいとのことです。 先にも書いたように筋のテンションが高いと声は高くなり、テンションが低いと声は低くなります。 声が高い=テンションが高い=元気がある、という類推から、声を高くすることで元気で快活な印象を与えたい、という判断が意識的、あるいは無意識になされた結果高くなったという解釈です。 人により理由は違うでしょうし、これ以外にもあると思います。 他によそ行き声の特徴としては、口腔〜咽頭腔を広げて声の響きを良くするというのもあるようです。 これも倍音を多くして聞き手に聴き取りやすくしようとする判断が働いた結果と解釈できます。ただし聴きようによっては気取った声に聴こえるかもしれません。 この声は聴き取りやすいものの、普段からそのような声を出す人物はなかなかいないため、非常に意図的に作り出している声に思われてしまいがちだからです。 一方、男性でもよそ行き声はあると思いますが、男性は概ね声が高くなるよりは大きくなるように思われます。 これは男性は女性よりも出せる声の幅が狭く、あまり高くは変えられない、という構造上の問題があるためと思われます。 聴き取りやすく、という目的であれば、大きな声でも事足ります。声が大きい=テンションが高い=元気がある、も成り立ちます。 つまり男性は高い声を出すより大きな声を出す方が得意で、女性は大きな声より高い声を出す方が得意、と言えます。 それにしても別にそうしなさいと教わったわけではないと想像しますが、人間とはつくづく複雑で高等な活動をするものだと思います。 ところで、低い声は安心感や信頼感、落ち着きの印象を与えるため、少なくともビジネスシーンでは低い声を使う方が良い、という意見があります。 ビジネス声もよそ行き声のひとつではあるでしょう。果たしてよそ行き声に適した声とはなんなのでしょうか。 よそ行き声が気になります。 |
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2016 02,01 05:24 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.025 2016.02.01創刊1周年特別号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ このメールマガジンは昨年2月の第1週に第一号を配信しました。ですので今号でちょうど創刊一周年となります。 というわけで今回のコラムはいつもと趣向を変え、今準備を進めておりますリニューアルの概要を先行してお知らせしたいと思います。創刊一周年記念企画です。 1)発声エクセサイズについて まずもっとも肝心な発声エクセサイズについてですが、根本の考え方に変わりはありません。 発声は運動で、筋肉を鍛えて動かしやすくすれば声は良くなる、というところは同じです。運動科学的な理論に則って行うことは言うまでもありません。 具体的には、現行ではアセスメント→トライアル→プログラムメニュー→エクセサイズという流れでした。 しかしこれを実際に行うとなるとなかなか分かりにくく実施が難しかったように思います。そこでここをもっと整理します。 まず現行のアセスメントはチェック方式でしたが、ここがちょっと難しいようでした。そこでリニューアルではフローチャートでアセスメントを行えるようにします。 特にこのフローチャートでは、まず最初に筋肉に力が入りすぎている声か、筋肉に力が足りない声か、そこから分かれていくようにします。 両者ではトレーニングのやり方が全く違うためで、まず初めにそこを分けるのが大切と考えられるからです。 トライアルも複雑で実施が難しいようでした。そこで現行のトライアルは無くす予定です。そのかわりにプログラムに第一選択、第二選択のように優先度合いをつけます。 この場合にはこれを第一選択とする、効果がない場合には第二選択に切り替える、というようにフローチャートで選べていくようにします。 プログラムにはより筋力増強効果を見込める「ロング負荷ブローイング」などのテクニックを新たに加えます。 エクセサイズ実施の具体がわからない、という面もかなりありました。そこでガイドラインとなるよう実施回数などのひな形を設定した「基本セット」を用意し呈示します。 全体に難しい判断を要することなく、流れに沿って行っていけば簡単にプログラムを選べて実施できるようにしたいと思います。 2)発声エクセサイズの名称について 現行の「発声フィジカル・エクセサイズ」という名称は、運動機能の促進に重点を置くこのエクセサイズの趣旨からして別に齟齬はありません。 しかしフィジカル・エクセサイズという用語そのものがさほど一般的でなく、何を指しているのか分かりにくいという指摘もあり、もっともと思われます。 そこで名称の変更を考えていますが、フィジカルを日本語にした「運動的発声エクセサイズ」ではどうでしょう。 本当は「エクセサイズ」という言葉には練習という意味だけでなく身体運動という意味も含まれているので、重複する面もあるのですが、強調して内容を表すためにはやむをえないでしょう。 「運動的発声トレーニング」でも良いのですが、この発声エクセサイズは声の治療法としての側面もあるので、トレーニングよりはエクセサイズが適切という気がしています。 ほかに「発声運動エクセサイズ」、「運動学的発声エクセサイズ」、「発声運動科学エクセサイズ」などの案もあります。 シンプルな方が良いかと思いますが、若干まだ決めかねています。サイトにアンケート機能をつけられればアンケートを取りたいところです。 3)サイトのリニューアルについて サイトも全体に構成をリニューアルしたいと考えています。 具体的には、現行では「一般の方向け(自主練習法)」「声の専門家の方向け(指導法)」「高度な指導法を知りたい方向け」と分かれていますが、これを再編します。 まず「一般の方向け」と「声の専門家の方向け」は統合します。つまり指導法の中に自主練習法が入る、とお考えください。ただし指導法の一部は分離します。 そして「高度な指導法を知りたい方向け」は結局今に至るも公開に至りませんでしたが、ここにこれまでの指導法のうち難易度の高いものを入れます。 ここには直接講習などを行わないと実施が難しいテクニックが入ります。これまでなかなか公開できなかったのはどう表現したら良いか迷っていたためです。 結局、これをサイトで表すのは難しいので簡単な紹介程度になるでしょう。直接講習などの道筋を整備していくことになると思います。 4)メルマガについて メルマガは、トピックス・解説・コラムの3本とQAほかを掲載してきましたが、そろそろ解説は終了にしようと思います。 トピックスとコラムはそのまま継続しますが、今後のメルマガは、どうすれば声がよくなるか、という点を全体テーマとしたコンテンツで構成していきたいと考えています。 具体的にはもう少し詰めてお知らせします。 リニューアルはこのような感じを予定しています。本当はこの一周年のタイミングでリニューアルを行いたかったのですが、とても間に合いませんでした。 というかまだ一文字もhtmlを書いていません。 できるだけ早めにリニューアルを行いたいと考えておりますが、今のところいつ頃とは申し上げられません。それまで皆様気長にもうしばらくお待ちください。 |
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2016 01,18 04:04 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.024 2015.01.18号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 大したことではないんですが、声変わりが気になっています。 声変わりは専門用語でいうと変声といいます。生後すぐから身体は成長していきますが、それに伴って声帯も成長して大きくなっていきます。 ピッコロ、フルート、オーボエと楽器が大きくなると低い音が出ますが、同じ原理で声帯や喉頭が成長すると声は低くなってきます。 音響的に言うと 生まれた直後の声の高さは400Hz前後、それから徐々に低くなり小学校高学年では男女とも200〜300Hzになります。 この声の変化は小学校高学年ごろまではおよそ身体の成長と相関して直線的なのですが、おおむね12歳~13歳ごろに顕著に変化します。 それが声変わりで、女子にも起こりますがあまり目立たず、男子の声変わりがとても顕著です。 声変わりが完成すると、声帯の長さが男性約2cm、女性1cm、高さの男女差は約1オクターブ、音響的には成人男性で80〜150Hz、成人女性で180〜250Hzになります。 これは第二次性後期の変化によるもので、この時期の男子は声帯の組織が増殖して甲状軟骨がせり出し、いわゆるのどぼとけが見られるようになります。 この声帯の拡大によって声は低く太く変化します。この期間を変声期と言いますが、大人の声として十分に安定するまでには3〜4年かかるとも言われています。 男子にだけ急激な声帯の成長が生じるのは進化過程でそれなりの生物学的必然性があってということなのでしょう。ここではおいていきます。気になるのは呼吸様式です。 一般に男性は腹式呼吸を用いることが多く、女性は胸式呼吸を用いることが多いと言われています。いつからこの違いが生じるのでしょう。 呼吸様式に男女差が生じる理由として、女性は腹筋群の筋力が弱いため胸式呼吸にならざるをえない、と説明されることが多いように思われます。 小児期から腹筋群の筋力に差が生じているとは思われません。小学校高学年まで男女に身体機能に差はあまりないといわれています。 では変声期に呼吸様式が変化するのでしょうか。つまり男子に腹筋群が強くなるというような変化が起こるのでしょうか。そもそも腹筋群が強くなると自然に腹式呼吸になるのでしょうか。 教え込まれて変化するならともかく、そんなに呼吸パターンが自然に変わるものなのでしょうか。 もちろんそういう説もありますが、それなら女子でも腹筋群を鍛えているようなスポーツをしていれば自然に腹式呼吸になるのでしょうか。いろいろ疑問が湧いてきます。 このあたりすでに明らかなのか、研究途上のものなのか勉強不足で現時点ではわかりません。とりあえず声変わりにまつわる呼吸が気になっています。 |
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2016 01,04 06:08 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.023 2015.01.04号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 紅白歌合戦が気になります。 別に紅白フリークとか、いつも歌番組を観ているというわけではないのですが、歌手の皆さんの発声法とか声の特徴は普段から習性で気になっています。 で、紅白だと一度に大勢の歌手の皆さんの声が聴けます。 色々批判はあるようですが、出演者はその年を曲がりなりにも代表したり話題になった方々ということですので、そのあたりの興味もあります。 それで今回は紅白を聴いて、声についての感想を書いてみたいと思います。もちろん全くの個人的な主観に基づくものですので、真実でもなんでもありません。 与太話として読み飛ばしていただれば幸いです。 ・郷ひろみさん。もう60歳を越えているのに声質は全く変わっていませんね。鍛えていらっしゃるのでしょう。 ただ後半からちょっと声量が落ちてしまいました。頑張っていましたが、あのお歳で踊りながらの発声では無理からぬところです。 ・大原櫻子さん。ファルセットを多用した歌い方ですね。 ファルセットは息が混じってしまうので地声部分との接続に違和感が出やすいのですが、大原さんは地声部分も気息声なので接続部がうまくカバーされていました。 ・徳永英明さん。懐かしい曲でした。しかしかなり気息声が強くなっていました。高音部でもクリアにならないというのはかなりの重症です。 徳永さんのように地声の高い発声の方はどうしても高音部の多い歌で聴かせようとするので声帯に負担がかかりがちなのだと思います。 往年のクリアな発声を知る者としては切ない心境です。 ・miwaさん。ちょっと声道を狭くして独特の響きをもたせていてそこが特徴ですね。比較的無理のない発声をされていますので、割と安心して聴けました。良い感じです。 ・いきものがかりさん。好きなアーティストなのですが、ちょっと無理な発声をしている感じがしました。 硬起声ではないのですが、声量を出すために声帯を絞って呼気圧を高める方法をとっているようにお見受けしました。声帯には負担がかかりますのでこのままだと心配です…。 ・superflyさん。最も安定した発声でした。安心して聴くことができました。 ・X Japanさん。一番高音のところの音は苦しそうでした。少し気息声ながら今のところは大丈夫なようですが、徳永英明さん同様声帯に負担がかかりがちな声です。 無理をなさらぬように…と思わざるをえません。 ・レベッカさん。懐かしいです。発声の持続力に余裕がなさそうで、ちょっと不安定でした。 息が続かないのを節約して乗り切っていたようにお見受けしましたが、これで活動休止とのことでちょうど潮時であったのかもしれません。 ・松田聖子さん。全盛期の80年代、声を酷使しすぎて気息性の起声になってしまいましたが、もうほぼ治癒して気息性起声は消失したようですね。良かったです。 ただ全体のキーが低くなって、あのアイドル然とした高音ももう聴かれませんでした。声帯にはその方が良いのですが、ちょっともの足りない気もしてしまいます。 ・演歌勢の方々はいつもと変わらず、藤あや子さんを除いて皆基本同じような、声帯を絞って咽頭腔を開ける発声法でした。 それが演歌といえばそれまでですが、演歌が誕生して50年ほど、一時期の隆盛から現在は低迷し復活の兆しはありません。 どの人も同じような歌い方ではただのコピー製品の再生産にすぎず、劣化は免れません。このままでは飽きられて歌舞伎や浄瑠璃のように文化財化していくしかないでしょう。 もしお飾りでなく主流に返り咲きたいのなら 、なんらかのイノベーションが必要です。 ・グループの方々は個々の発声がよくわからないので特に言うことはありません。声を売りにしていないビジュアル系の方々やコンセプト重視の方々にも特にコメントはなしです。 ・最後に細川たかしさん。一部高音は苦しそうでしたが、御歳65歳であの声門閉鎖と声量、高音部の安定性、そして発声持続力の維持は大したものと思いました。 あまり言われていませんが、実は天才的な発声能力をお持ちなのではないでしょうか。 というわけで。また来年が楽しみです。 |
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2015 12,21 05:28 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.022 2015.12.21号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ アニメ映画などの声優に有名な俳優さんやお笑いの芸人さんが起用されることがあります。これについて話題先行とか人気取りとか、とかく賛否両論いわれることが多いようです。 素人ですので演技の技術うんぬんはもちろんよくわかりませんが、一観客としての意見を率直に言うと、確かに違和感を感じることも少なくありません。 それがベテランの有名俳優さんであってでもです。どうしてなんでしょう。声優と俳優で何が違うんでしょうか。気になります。 俳優さんへの否定的意見では、「棒読み」「棒演技」という意見が多いように思われます。確かにそう言われるとその辺りが違和感の正体である気がします。 つまり抑揚が乏しく、登場人物の感情があまり伝わってこない気がするのです。 しかし俳優さんは演技のプロです。感情表現など俳優さんにとってはお手の物のはずです。別に声だけで出演しようが演技をすることに変わりはないように思われます。 それなのに専門の声優さんとの間にそれほど大きな隔たりが生まれるのはどうしてでしょう。 演技者の資質でないとすると実写とアニメ、両者の違いのカギは画面ということになります。 画面の差とは?それは情報量です。画面に映し出されているのはどちらも立体視はできない二次元画像です。 そこに差はありません。あとは細かいところまで映しだされているか、単純化して情報量が落とされているか、それだけです。むろん後者がアニメです。 アニメは色とか動きとか形とかの情報量が落とされてできています。情報が落ちている分だけ単純になり分かりやすくなっているといえます。しかし逆にアニメでは細かな違いが表せません。 つまり実写はほんの細かな表情の違いとかしぐさとか、そういった視覚情報と演技者の声とで感情表現がなされます。 それに比較するとアニメは感情表現の視覚情報が実写に比べるとどうしても少なくなっています。これはアニメがアニメである以上あたりまえのことです。 さて、視覚情報が少ないところに俳優さんが実写感覚で声を当てるとどうなるでしょう。情報の総量が足りないことになります。 つまり感情表現が乏しく、「棒読み」に聞こえる、というわけです。 これを解決するためには画面をより実写に近づけて視覚情報を増やすか、演技者が感情表現を大きくつけて情報の総量を増やすか、どちらかしかありません。 プロの声優さんは確かに抑揚を大きくつけて、例えば驚くにもいちいち「ええっ」とか言っているように思われます。 実写では自然な演技ができることが望まれるのでしょうが、情報の足りないアニメでそれをやるともの足りなくなってしまうのでしょう。 ただ最近は声優さんの過剰な演技を嫌う監督さんもいるという話です。おそらく画面の視覚情報に自信があって、情報過多になるのを避けているのでしょう。 画面の質によって演技の量を切り替えることができればベストなのかもしれません。本当に優れた人なら声優・俳優の別なくそこをコントロールできるのでしょうか。 声優さん俳優さんそれぞれの演技の差が気になります。 |
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2015 12,07 06:15 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.021 2015.12.07号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 今を去ること十数年前、当時の私は発声に関する知識も経験も乏しい状態でした。 でもなんとかSさん(仮名)の声を出させたい、なんとかしてSさん(仮名)の喉の力を抜かせたい。ワラをも掴む思いの試行錯誤が始まりました。 まず試したのは指圧法です。喉を指で押し下げると喉の構造上声帯がゆるみます。これは知識の乏しい私にもわかりやすい納得のいく方法でした。 しかし色々何度となくやってみましたが、全く効果はありませんでした。 次の選択肢、咀嚼法では口をもぐもぐさせながら声を出さなばなりません。普通でも慣れないとやりにくそうな方法です。ちょっとやってみましたがSさん(仮名)は喉だけでなく首から口全体に力が入ってしまいました。実施は難しそうでした。これは断念しました。 残るは開口法か舌突出法です。 開口法は口を大きく開けながら声を出させる方法、舌突出法は舌を出して声を出させる方法です。どちらもやり方としては単純な方法です。 仕組みとしては、口をだらんと大きく開けたり、舌をだらんと出したりすれば力が抜けた感じになるので、ついでに繋がっている喉も力が抜ける、というものです。 なんだか嘘っぽい、こんなもので効くのか、と私は半信半疑でした。しかしワラでもなんでもとにかく掴まねばなりません。 まず開口法をやってみました。実施はとても容易でした。なにしろ口を大きく開けさせるだけなのです。 しかし残念ながら特に効果はありませんでした。口を大きく開いても声は相変わらず「あ”っ、あ”・・・」でした。 続けて舌突出法をやってみました。やってみるとまず舌を出し続けることが難しいのでした。Sさん(仮名)は舌は出せます。 しかし声を出そうとすると引っ込んでしまうのです。喉に力が入ると自然に舌にも力が入ってしまうようでした。 そこで舌が引っ込まないよう押さえておくことにしました。舌鉗子というトングのような器具を使って舌をずっと引っ張っておくのです。そして声を出させました。 果たして声が少しだけ出やすくなったような気がしました。私は当面これを続けることにしました。 Sさんはそのうちにこの方法に慣れてきて、舌鉗子を使わなくとも舌を出して声を少しだけ出せるようになりました。 しかしそこからなかなか変わってきません。もうひと押しが足りないのです。 私は医学専門書だけでなく声楽の専門書も探してみることにしました。専門書に声の訓練法は声楽のテクニックを応用している、と書いてあったからです。 ネットで探してみるといろいろ出てきました。といっても精神論とかイメージ重視の発声法では使えません。あまり医学的に根拠のない理論でも困ります。 中でよさそうな一冊の本が目に留まりました。荻野仁志・後野仁彦共著「医師と声楽家が解き明かす発声のメカニズム」(音楽之友社)です。 著者は医師と声楽家のようです。2,400円とちょっと高めでしたが注文してみました。 2〜3日して届いた包みを開けたときは少しがっかりしました。ずいぶん薄い本だったからです。これで2,400円はどうなのか、と。しかしとにかく読んでみました。 すると驚くなかれ、実は内容は良かったのです。本の大半が図版と写真です。発声の仕組みを図版と写真をこれでもかというくらい使って説明してありました。 これだけでも私にはありがたかったのですが、さらにプロの発声と素人の発声の違いをMRIを使って比較してありました。実にわかりやすい本でした。 そしてひときわ目を引いたのは「第5章 喉詰め発声から抜け出す方法」と「第7章 私たちの提案する声の作り方1」でした。 喉詰め発声とは要するに緊張した声です。すなわち度合いは違うがSさん(仮名)のような声です。 喉詰め発声では喉が全体に上にあがります。喉詰めを防ぐには喉を下げて声を出させれば良いのです。 しかし喉を下げて声を出すことは簡単にはできません。普通でも声を出すと喉は少し上にあがってしまうのです。 そこでこの本では口を大きく斜め後方に開け声を出す方法を推奨していました。それで喉が上がらずにすむことをMRI図で示していました。 開口法は開けるだけでしたが、これはそれを少し変えています。いわば開口法のバリエーションといえそうです。 早速Sさん(仮名)に実践してみました。口を大きく開かせ、私が顎を斜め後方に押しながら声を出させてみました。すると声が少し出やすくなったようでした。 もうひと押しです。私はこれにこれまで行ってきた舌突出法を組み合わせてみました。すると劇的なことが起こったのです。 いきなりきれいな「あ~~」という声が出たのです。これまでどんなにやってもほとんどだめだったのに、です。 それは本当に見事な声でした。 その時、私はびっくりしましたが、Sさん(仮名)もびっくりしたようでした。そして嬉しそうに笑ったのです。私がSさんの笑顔をみたのは恥ずかしながらその時が初めてでした。 好々爺のように柔和な顔になったSさんを見て、私は諦めなくて良かった、としみじみ思いました。 そして同時に、この不思議な声というものをもっと知りたい、もっと声のことに詳しくなって声の問題を解決できるようになりたい、そう強く思いました。 これが私が発声研究を始めたきっかけです。もう十数年前のことになります。昨日のことのように想い出されます。 それは今思い返してみても私のエポック・メイキングになった瞬間だったと思います。 |
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2015 11,16 04:55 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.020 2015.11.16号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ いつもこのコラムでは声に関連して筆者が気になったことを書いていますが、今号はキリのいい創刊20号ですので、特別篇ということでちょっと趣向を変えて、なぜ筆者が発声研究を始めたか、という話を書いてみたいと思います。 それは今を去ること十数年前、Sさん(仮名)から始まりました。 Sさん(仮名)は脳梗塞になり私の勤める病院に入院しました。 脳梗塞になったすぐのころは多量のたんが出ることがあります。たんがあまり多いと窒息の危険があります。 窒息は防がねばなりません。 対策として気管切開、つまり喉に穴を開ける方法があります。そして気管カニューレという管を通します。それで呼吸をしやすくするのです。 Sさん(仮名)もたんがかなり多く気管切開をしていました。気管切開をしていると声は出ません。声は息が通って声帯を震わせると出ますが、気管切開の穴は声帯のすぐ下に開けます。 声帯に行く前に息が外へ出てしまうので声は出ないのです。 しかし気管カニューレに栓をして穴をふさぐと声は出ます。気管カニューレには栓を取り付けられるタイプのものがあります。気管切開していてもこれを使えば声が出ます。 ところがSさん(仮名)さんはスピーチカニューレを使っても声がうまく出ませんでした。それで困った主治医が私のところに依頼してきたのです。 どういうことかと私はSさん(仮名)のところに行きました。そして早速気管カニューレにスピーチバルブをとりつけ声を出してもらいました。 「あ”っ、あ”っ、あ”・・・」 声がわずかにしか出ません。しかもしぼり出すようで苦しそう。そしてすぐに血中酸素濃度が下がってきました。呼吸ができていないサインです。急いでスピーチバルブをはずしました。 Sさん(仮名)が脳梗塞を起こした場所は小脳です。小脳は身体を動かすときに各部がスムーズに動くよう調整するところです。 小脳がやられると細かい運動などが特に難しくなります。力加減もうまくいかなくなります。 発声も運動のひとつです。声帯が微妙な隙間を残して閉じ、そこに息が通ると声が出ます。Sさん(仮名)はこの微妙な隙間を残すことができず、声帯を思いっきり閉じてしまうのです。 そこで無理に声を出すとこのようになります。息をすることもできないのです。発声運動の微妙な調節ができないからです。 さてどうするか。 その頃私は声にはあまり詳しくありませんでした。声の問題を扱うチャンスがあまりなかったのです。 病院勤めとしての経験的にはベテランでしたが、このようなケースはみたことがありませんでした。 通常、声帯に過度に力が入って声がうまく出せない場合には軟起声発声という発声法を使います。あくびーため息法などがその代表です。 つまりため息をつくように「はあ~」と声を出すと喉に力が入らないのです。ここから始めて徐々に力を抜いた声の感じを覚えてもらいます。嘘みたいですが結構効果もあるのです。 しかしSさん(仮名)はため息どころか息も吐けません。息を吐こうとするだけで「あ”っ、あ”・・・」となってしまいます。どんなに力を抜いてと言ってもだめなのです。すぐに呼吸困難を起こしてしまいます。 なんとか喉の力が抜けないかと思い、首のストレッチや喉のマッサージなどもしました。しかしさっぱり効果は上がりません。 Sさん(仮名)さんは柔和な顔立ちをしています。うまくいかないたび柔和な顔を曇らせました。小脳の梗塞というのは運動が難しいだけで頭の中ははっきりしているのです。 練習が徒労に終わる日々は続きました。Sさん(仮名)は悲しそうでした。 このまま終わらせるわけにはいきません。悲しそうなSさん(仮名)をそのままにできるでしょうか。私がなんとかしなければ何も変わらないのです。 私はとにかく文献をあさることにしました。本やら資料やらを大量にひっくりかえしました。 その結果、使えそうな方法としては、指圧法、咀嚼法、開口法、舌突出法などがありそうでした。 指圧法は喉を指で押し下げながら声を出させる方法、咀嚼法は口をもぐもぐさせながら声を出させる方法、開口法は口を大きく開けながら声を出させる方法、舌突出法は舌を出して声を出させる方法です。 私は少しがっかりしました。これだけ調べたのにこれという決め手の方法はみつからず、あまり大したことのなさそうな方法しか出てこなかったからです。 しかし私はワラをもつかむ心境です。とにかく片っ端から試してみることにしました。 この後、やはり危惧した通りすんなりとは行かなかったのですが、そこで私は声の不思議を思い知ることになるのです。(続く) |
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2015 11,02 07:25 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.019 2015.11.02号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 映画「櫻の園」のストレッチが気になります。 「櫻の園」という映画をご存知でしょうか。 もう25年も前の1990年に公開された邦画ですが、女子校の演劇部を舞台にチェーホフの戯曲「櫻の園」の上演に取り組む高校生の人間模様を描いて多数の映画賞も取った名作です。 劇中で演劇部員たちは上演前に揃って屋上に行き、ストレッチをしながら発声練習をするのですが、そのシーンが非常に躍動的でなぜだか今でも鮮明に印象に残っています。 もちろん映画の演出上でも、上演中止か上演か職員会議で揺れている中、上演を信じて準備を怠らない部員たちを見せている実は重要なシーンなのですが、気になったのはストレッチ内容です。 映画ではずいぶん色々なストレッチをしていました。発声のストレッチってこんな風にするものなのでしょうか。 よくなされるストレッチとはどんなものでしょうか。気になります。 まずストレッチをするなら、発声が喉頭筋と呼吸筋によってなされることから考えて、このふたつを対象とするのが妥当でしょう。 上下を向く首の運動は喉頭筋の舌骨上筋・舌骨下筋のストレッチになります。これをすると声の高低が出しやすくなるでしょう。 首の回転も同じような効果があると思われます。左右に首を回す運動は胸鎖乳突筋に主に効くストレッチですから喉頭というよりは呼吸の補助に役立つ感じです。 両腕の上げ下げや腕を左右に大きく振って体幹をねじる運動は呼吸筋である肋間筋のストレッチになります。大きな声や長い声を出す準備になるでしょう。 上体の前屈・後屈運動はちょっと微妙ですが呼吸筋である腹直筋のストレッチになっているかもしれません。 ちょっと考えて主なものはこんなところですが、映画では跳躍とか動きながらの発声とかもっと色々な複雑なことをやっていました。 正直、それらはどのような目的でなされていたのかわかりません。構成からして全くのフィクションとは考えられず、何らかの出典があると思われます。 発声のためだけでなく、演技しやすくするために全身を伸ばしていたとも考えられます。 発声に姿勢は大きく影響しますので、ひょっとすると無理のない姿勢をとるために全身をほぐしていたということかもしれません。 それとも実は知られざる効果が他にあるのでしょうか。映画であったあの躍動的で複雑なストレッチはそれぞれに深い目的があるのでしょうか。 映画「櫻の園」での複雑なストレッチの意味が気になります。 |
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2015 10,19 02:47 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.018 2015.10.19号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 森山直太朗さんのカラオケ上達方法が気になります。 少し前になりますが、歌手の森山直太朗さんが何かの番組で、だれでもすぐできる歌の上達法という話をされていました。 それは3つの方法からなるそうですが、これをカラオケなどで歌を歌う直前にやっておけば歌が下手な人でも上手に聞こえる、というんですね。これは気になります。 その方法ですが、まず第一にすることは、歌う前に歌詞を棒読みする、だそうです。つまりなんとかかんとか・・・とぶつぶつ口に出して読んでおくんですね。 第二に、自分が筒になったイメージで響かせるつもりで歌詞を読む、だそうです。この時の声の大きさは普通に喋るときの大きさが良いそうです。 最後は、歌う前にミッキーマウスのマネをする、のだそうです。ミッキーですからあの独特の高い声ですね。 裏声で「やあミッキーだよ」とでも言えばOKです。最近のキャラで言えばふなっしーでもいいみたいです。 やってみました。確かにいい感じです。そしてこれを解釈して一言で言うと、要するに歌う前には準備運動をしましょうということですね。 第一の棒読みは口の運動です。いきなり歌うと舌がもつれたりしてつっかえやすくなります。緊張して声も硬くなります。 軽く運動をすればそこを防げます。声に出すので軽い発声練習も兼ねています。 第二の響かせる読みはイメージで声道を広げ共鳴を良くして声を綺麗に聴かせようということです。 歌でやらずに歌詞を読んでやらせることによりハードルを下げています。「筒になったつもり」とは面白いイメージです。 そして第三のミッキーのマネは声帯のストレッチです。 運動の前に筋肉のストレッチをしておけば軟らかく動きやすくなり、コントロールもしやすくなるのはよく知られていますが、実は声帯も筋肉運動なので同じことです。 これも「ミッキーのマネ」というイメージを入れることでより分かりやすくしています。これをすれば高音域が出しやすくなることでしょう。 こうしてみると森山さんの上達法はとてもとっつきやすく、だれにでもイメージしやすいように工夫されていることが分かります。 さすがと思います。発声フィジ・エクセでもウォームアップを重視しているわけですが、より効果を上げるためにイメージを利用することはとても有効なのではないかと考えています。 どんなイメージが良いのかは検討中です。森山さんの上達法にも、もっともっと他にもイメージがあるかもしれません。 森山さんの歌の上達方法が気になります。 |
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2015 10,05 06:18 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.017 2015.10.05号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 男の声と女の声の違いが気になります。 男性の声と女性の声って違って聴こえますよね。声の高さが違うからそりゃ当然でしょうといわれればその通りです。 でも高い声の男性と低い声の女性だったらどうでしょう?同じ文章を読んだとしてどのように聴こえるでしょうか。 実はほとんどの人が男性の声・女性の声と聴きわけることができるのだそうです。男性の声と女性の声ってなにが違うんでしょうか。気になります。 そもそも男女で喉頭のサイズは異なりますが、話しているときの声の高さを平均基本周波数で比較すると、男性が130Hz、女性が190Hzです。 はっきり言って大した差ではありません。なにしろその差は約半オクターブでしかありません。では声の違いはどこで生じるのでしょう? 実は喉頭の位置が違います。比較すると男性は声帯の位置が女性よりも低く、そのため声道が女性よりも長くなっています。 比率にして女性の約1.2倍です。声は楽器と同じで、音の通り道が短ければ短いほど高い音、長ければ長いほど低い音が出ます。 楽器でもそうですね。短めのピッコロとかフルートは高い音が出ます。対して長めのクラリネットやオーボエは低めの音が出ます。 つまり声帯で出る喉頭原音の高さに差がさほどないにもかかわらず、男性の声が女性の声に聞こえないのは、基本周波数ではなく、その音の響き方によるということになります。 さらに男性と女性では、会話で出す音の高さの範囲にも違いがあるといわれています。 会話時に男性が出す音の高さが60~260Hzであるのに対し、女性が出す音の高さは120~520Hzなのだそうです。 つまり男性では低い声と高い声の差が200Hzなのに対して、女性の場合の差は400Hzと、男性の倍の範囲の声を出していることになります。 要するに男性と女性を比較すると、女性は会話の抑揚やイントネーションがとても大きく、男性は抑揚が少なくて一定に近いということなのです。前途した高い声の男性と低い声の女性が聴き分けられるポイントはここにあると思われます。 従ってもし高い声の男性が大きく抑揚をつけて喋ったら女性と区別がつかなくなるかもしれません。 声の低い女性は抑揚を大きくつけて喋れば男性に間違われてしまって気分悪い、ということも減るのではないでしょうか。 女性声優で声の高い男性の声を当てるなら抑揚を乏しくするとそれらしくなると思われます。 ところで生物学的に言うと、雌雄で声が違う生物はそれほどありません。進化的にヒトに近いサル類でも哺乳類でもヒトのように明確に異なるものはなかなかありません。 どこにメリットがあったのでしょうか。男女の声の聴き分けが原始の生活で重要だったのでしょうか。 男の声と女の声の違いがまだまだ気になります。 |
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2015 09,21 05:48 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.016 2015.09.21号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ コロッケさんの発声法が気になります。 タレントのコロッケさんといえばものまねタレントの代表格のおひとり。その芸はますます磨きがかかり、その暴走気味なところも含めて近年は独自の世界を築いていらっしゃいます。 でもものまねって仕草とか表情とかしゃべり癖とか似せるポイントはいろいろあるでしょうが、まずは声ですよね。声が似ていないとそもそも似てる感じがしません。 ではコロッケさんやものまねタレントの方々ってどうやって声を似せているんでしょうか。その発声法、気になります。 これについてはコロッケさんご本人がテレビ番組の中でおっしゃっていました。 コロッケさんは、まず自分の顔を中心に置いて、その人が自分の顔より下で声を出しているか上で出しているか考え、次に下でも前に押して声を出しているか後ろに引いて出しているかを考えて声を出す、のだそうです。 ちなみに下で前に押して出すと美川憲一さんになり、下で後ろに引くとピーターさんになるのだそうです。なかなか独創的です。でもとても面白い表現とおもいました。 コロッケさんが例として出された声を聴く限りでは、顔の下か上かというのは声が高い低いというだけでなく、おそらくチェストボイス(胸声)・ヘッドボイス(頭声)を指していると思われます。 今号(vol.016)のワンポイント解説でも書きましたが、チェストボイスは太くてよく響く声、ヘッドボイスは高くてもファルセットのように息漏れせず明瞭で響く声です。 頭に響く感覚・胸に響く感覚があるので顔の上か下かという表現は納得できるところです。 そして前に押す声とは、聴くところ民謡とか演歌のような声帯を締める発声法です。 声帯は締めますが、喉頭から咽頭の空間はむしろ広げているのでよく共鳴し苦しい声にはなりません。 反対に後ろに引く声とは、声帯は締めず喉頭の空間全体を広げて出す西洋風の発声法です。声帯を締めているので押す、声帯を広げているので引く、というイメージを持たれたのでしょう。 コロッケさんは、ものまねの練習をする際には鏡も見ないしビデオ撮りもしないで、全て自分のイメージだけで作り上げていくそうです。 イメージだけなのでどんどん暴走していってしまうそうですが、そのぐらいイメージングが豊かだからこそ、声の出し方も独特のイメージで捉えて創り上げることができたのではないでしょうか。 さらには10mぐらい先に向かってトンと落とすような声とか、もっと複雑なイメージもあるそうです。どうももっともっとありそうです。 コロッケさんの豊富なイメージによる発声法が気になります。 |
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2015 09,07 11:32 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.015 2015.09.07号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ こぶしが気になります。 bこぶしとっても拳じゃありません。演歌で使われる歌唱法であるこぶしの方です。「こぶしを回す」というように使われますが、漢字で書くと「小節」になるようです。 こぶしというのはポップスとか他の種類の歌ではまずみられませんし、これを聴くとああ演歌だって印象づけられる独特の歌唱法です。 そもそもこぶしってどういうものなんでしょうか。こぶしはどのように出来上がったものなんでしょうか。似たようなものにビブラートがありますがどう違うんでしょうか。 この辺り気になります。 まずこぶしってどういうものでしょう。こぶしとは、音階と音階の間に楽譜上にはない細かなメロディを入れて歌う技法です。 例えばドーミの音階の場合、これをド―レファ―ミと歌ったり、ド―シレド―ミのように歌ったりします。 もちろんメロディ変化をするといってもリズムを崩すわけにはいきませんから、この変化はごく短い時間で素早く行なわねばなりません。 変化の仕方は特に決まったものはなく、低音に下げても高音にあげても力んでもよく、ファルセットにする出し方もよく使われるようです。 その変化の仕方は歌い手に任されているので、どのように出すかがその歌手の個性になるわけです。他に2小節以上伸ばす所では2小節目から入れることが多いようです。 また、こぶしはもともと長唄や民謡などで昔から用いられてきた歌唱法で、演歌がそれを取り入れたということのようです。 そもそも演歌の成立は、諸説ありますが概ね戦後の昭和20〜30年代頃と比較的新しいのです。しかも当初は演歌=こぶしではありませんでした。 それが長唄や民謡出身の歌手たちが演歌にこぶしを取り入れ始め、それが定番となり今のこぶし=演歌として定着したもののようです。 こぶしは演歌など日本独特のものと思われがちですが、実は西洋音楽にもあります。 メリスマ (melisma) と呼ばれるものがそうで、歌詞の1音節に対して、いくつかの音符を当てはめるような曲付けの仕方、あるいは、もともと1音節対1音符で作曲されている部分(シラブル様式)に、2つ以上の音符を用いて歌うことを言います。 これはグレゴリオ聖歌などのミサ曲やヨーデルによくみられます。 こぶしとビブラートは混同しやすいのですが、ビブラートは音量や高さを振動のように細かく変化させることで響きに変化をつける技法です。 両者は喉頭の動きも全く異なりますし、注意して聴き取れば区別できます。 どうして演歌にこぶしが定着したんでしょうか。演歌には情緒的な心情を歌い上げる歌が多いようです。 こぶしの音の変化はちょっと穿った見方かもしれませんが嗚咽に似ているような気がします。泣いているように聴こえる歌い方が、演歌の歌詞や曲調とぴったりだったのではないでしょうか。 こぶしが演歌の感情や情緒を表現するのに丁度良かったのかもしれません。 しかし今演歌はあまり元気がないようです。もう多くの日本人には飽きられてしまったのかもしれません。 今後、演歌は詩吟や長唄のように伝統芸能になってしまうのでしょうか。こぶしも伝統技に組み入れられてしまうのでしょうか。こぶしの今後が気になります。 |
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2015 08,17 07:38 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.014 2015.08.17号より |
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2015 08,03 07:24 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.013 2015.08.03号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 先日、NHKの番組「スタジオパークからこんにちは」に3人組ボーカルユニットのKalafinaの皆さんが出演されていました。Kalafinaというお名前、ご存知でしょうか? 実は私もよく存じ上げなかったのですが、NHK「歴史ヒストリア」のオープニング曲やエンディング曲を歌われている方たちです。 かなり印象的なハーモニーですし、知らずに耳にされていて聴けばああと思い当たる方も多いのではないかと思います。 リンク→ https://m.youtube.com/watch?v=OG6u8CDvpI4 さてこのKalafinaというユニットの面白いところは、メインボーカルが特定の一人ではなく全員というところです。しかもそれぞれの声の特徴がものすごく異なるというところが出色にすごい。全く印象の異なる声の3人がユニットを組むだけでも異質ですが、さらにKalafinaはひとつの曲の中で次々とメインボーカルが交代していくということをやっています。そのためにひとつの曲の中で曲の印象がジェットコースターのように変化するという、とても面白いことをやっています。 ところで「スタジオパーク・・・」の中でKalafinaのメンバーが興味深いことをおっしゃっていました。Kalafinaの曲では誰かがメインボーカルの時には他の二人はコーラスとかサイドボーカルに回るのですが、メンバーの声同士があまり違うのでそのままだと浮いてしまって綺麗なハーモニーにならない。それで同じ高さの音でも出し方を変えて下から出したり上から出したりするんです、とのこと。上から?下から?どういうことなんでしょう?ここは気になります。 リンク→ https://m.youtube.com/watch?v=sc9WAWnXvek その声を番組内で実演していらっしゃいました。同じ高さの声を3種類出していましたが、拝見したところ、ひとつはほぼ地声の声。もうひとつの下から、とおっしゃっていた声は、喉頭を下げて口腔・咽頭の空間を広げ、響きを強くした声でした。もうひとつの上から、とおっしゃっていた声は、舌を平たくしつつ口角(口の両端)を横に引いて口腔の空間を横に広くして音を加工しながら響きを強めた声でした。これを時によって出し分けて綺麗なハーモニーになるようにしているのだそうです。 響きを強めた声というのは色々な周波数の音が重なっている状態ですから、重なっている音のうちのどれかがメインボーカルの周波数と一致すれば綺麗なハーモニーとして聴こえます。つまり響きを強くした声はメインボーカルと綺麗なハーモニーを作りやすいということですね。 ところでどうして口腔・咽頭を広げて響きを強くした声を「下からの声」、口腔を横に広くして響きを強くした声を「上からの声」と表現されたのでしょう。おそらく「下からの声」は重なった音に比較的低音の音が含まれやすかったことが挙げられるでしょう。これは縦に広い空間が作られたためで、低音混じりなので下からという感じがした可能性が考えられます。喉頭を下げていることも直感的に下という感じとしてあるのでしょう。「上からの声」は別に高音が多く重なっているわけではありませんが、下からの対比でそう名付けられたという印象です。 それにしてもKalafinaの皆さんはどのようにして今の多様な発声法を身につけられたのでしょうか。試行錯誤などの努力の末でしょうか。音楽プロデューサーさんの指導の賜物でしょうか。いずれにしろとても印象的で素敵なハーモニーです。Kalafinaの皆さんの声がとても気になります。 |
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2015 07,20 03:31 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.012 2015.07.20号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 入試や採用試験の面接とか、大勢の前でしゃべらなければならない時ってものすごく緊張しますね。緊張してアガってしまうと、声って震えてしまったり上ずってしまったりします。私にも経験がありますが、声が震えて、今緊張している!と思うとますます緊張が強くなってしまって、もう自分でもどうにもならなくなってしまったりします。緊張した場面というのは声に何が起こっているんでしょうか。またどうして緊張するとこうなってしまうのでしょうか。考えてみると気になります。 緊張して声に起こる現象は、1)声の震え、2)声のかすれ、3)声の裏返り(翻転)・ピッチ上昇、といったところでしょうか。 声の震えはどこから来るのかというとこれは呼吸筋になります。声は呼気筋が働いて息を出すことによって出るわけですが、この呼気筋が緊張で震えてしまい、スムーズに息を吐けず、断続的になってしまった結果、あのような震え声になります。 緊張すると声はなぜかすれるのでしょう。これはおそらく声帯粘膜です。声帯は声帯筋を声帯粘膜という軟らかいカバーが覆っているような構造になっています。この声帯粘膜が滑らかに動くと綺麗な声が出るわけですが、この声帯筋が緊張でかちかちになってしまって、その上の声帯粘膜の動きも滑らかでなくなってしまっている、と考えられます。 かすれについてはもうひとつ。緊張すると喉が渇きますね。なぜか。緊張すると心拍数が上がって呼吸が速くなります。そうすると呼気・吸気が普段よりも頻繁に気道を通ります。息が頻繁に通ると風にさらされて声帯粘膜の水分が減って乾燥してしまいます。声帯粘膜は湿っていないと滑らかな動きができないため、結果かすれ声になってしまいます。 緊張による声の翻転やピッチ上昇、つまり裏返ったり高くなったりの原因は声帯筋です。緊張すると筋肉は硬くなりますが、それだけでなく筋肉のコントロールも充分効かなくなってしまいます。よくあるのは緊張して筋肉が硬くなり動きにくくなっているので思い切って動かそうとして力を入れすぎてしまった場合。もうひとつは舞い上がって冷静な判断ができなくなり、思い切り力を入れすぎてしまった場合。声帯に力をいれると声帯は引っ張られるので、声は高くなります。時には引っ張りすぎて翻転してしまうこともあります。このあたりが原因といえるでしょう。 ところでどうして緊張すると力が入ってしまったり、震えたりするのでしょうか。力が入るのは、自律神経系のうちの交感神経の働きによるものです。血圧上昇とか動悸と一緒で、ノルアドレナリンという物質が分泌されることにより生じます。 さてではなぜ緊張場面で交感神経が働き力が入るのかというと、まあアイドリング状態ということですね。一種の危機場面ですから筋肉に力を込めてすぐに危険に対処できるようにということだと思います。と言う割には緊張しすぎて動きが鈍くなってしまったりなんていう本末転倒な現象もありますので、危機対処としてはそれほど優秀なシステムとはいえない気もしますが。 さらに緊張した時に起こる震えは動きが余計に阻害されるなどリスクばかり目立って合理的な理由が見当たりません。それとも分かりやすい警告システムなんでしょうか。寒いときに起こる震えは振動により体温上昇を図るという合理的な理由があるのですが。 私も今は人前で話す機会が結構多いので慣れてしまいましたが、昔は大変緊張しました。初めて学会で発表した時などは緊張してどうにかなってしまいそうでしたので、やたら大声を張り上げて原稿を読んだりしました。不思議なことに大声を出していると緊張はどこかに行ってしまうのですが、会場の出席者にはまるで選手宣誓のように聴こえたかもしれません。 というわけで、緊張した場面での声が気になります。 |
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2015 07,06 15:51 |
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◇声の芸能 ◆気になるボイスコラム◆ vol.011 2015.07.06号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ アナウンサーの声が気になります。 毎年人気アナウンサーランキングというものが発表されていますね。アナウンサーの人気は喋りのうまさとか、親しみやすさとか、ルックスとか色々なものが影響して決まるのでしょうが、それよりも何よりも、アナウンサーですから伝えるべき言葉が聴き取りやすくなければさすがに仕事にならないと思います。そして聴き取りやすいための要素として声は無視できない要素です。つまり耳に聴こえた声の感じが良いことがアナウンサー人気には大きいんじゃないでしょうか。というかそもそもアナウンスに向いた声とはなんでしょうか。気になります。 さて男性アナウンサーというと、アナウンサーランキング殿堂入りを果たしているTBSの安住紳一郎さんが代表格として思い浮かびます。ここはひとつ安住さんの声を分析してみようと思います。 安住さんの声はというと、まず地声はやや低めです。声帯が緊張すると声が高くなることから、私たちは高くない声を聴くと自然に声帯が緊張していない=リラックスしている、落ち着いているという印象を受けます。落ち着いた印象というのは信頼性に繋がりますからアナウンサーにとってこれはとても有利なことでしょう。でもそれだけではありません。安住さんは時に抑揚をとても大きくつけており、かなり高い声も出しています。大きいイントネーションは感情の伝達に役立ちますので、視聴者にはとても分かりやすいことと思います。 さらに安住さんの声は空気の音や喉を締めたようなくぐもった音が混じっておらずスッキリとしています。つまり気息声とか努力声などの余分な要素がないため、声質はクリアでストレートに耳に届く聴き取りやすい声といえるでしょう。 安住さんの起声、つまり声の出し始めの部分は典型的な軟起声、つまりフェードインするような徐々に声を出す発声法をしています。この発声法はソフトな印象を与えます。 安住さんの声の響きは良い時もありますが、全体にはそれほど目立って前面には出ていません。その代わり発音時には鼻音化をきっちりさせています。タ行・ダ行・カ行・ガ行などの音はそのままはっきり発音すると聴いている人には強く聴こえてしまい、厳しい口調とか怒った口調に聴こえてしまいます。そこでこれを少し鼻にかかったように、息を鼻に抜きながら発音すると少し弱まって聴こえるのでソフトな印象を与えます。ただし鼻に抜きすぎると発音として不明瞭になってしまいますから、適度なバランスが必要です。安住さんはここのバランスの取り方が抜群です。 まとめますと、安住さんはやや低めの落ち着いた声と抑揚をきかせた伝わりやすい声を巧みに使いわけながらストレートかつソフトに聴こえる発声法を駆使してアナウンスを実行している、といえるでしょう。さすがアナウンサーランキング殿堂入りを果たしているだけある、見事な発声法です。聴いていても他の男性アナウンサーと比べて群を抜いて素晴らしい発声といわざるを得ません。 さてアナウンサーはフリーまで含めると星の数ほどいらっしゃいます。聴いているとここをこうすればいいのにな、と思うこともしばしばです。そして女性アナウンサー、いわゆる女子アナ。彼女たちの発声は? 長くなりそうですのでそれはまた改めて。 アナウンサーの声が常に気になります。 |
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2015 06,15 15:20 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.010 2015.06.15号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 「透明感のある声」という表現が気になります。 声の特徴を現わすのによくこのような「◯◯声」という言い方をしますね。「透明感のある」という言い方の他にも、もっと単純に冷たい声とか、明るい声や暗い声、軽い声や重い声、深い声、などという表現はよく聞きます。もちろん意味がわからないわけではありません。なんとなくイメージはわかります。でもなにしろ声は目に見えないものです。手で触われるわけでもありません。温度もありません。なのになぜ冷たいとか明るいとか軽いとかいう言い方をするのでしょう。あげく「透明感のある声」とは。目に見えない声を見える物のように、しかし実は見えていない「透明」という表現を使って表すというのはなんとも不思議です。気になります。 とりあえず冷たい声って何でしょう?辞書によると声に抑揚がなく、感情がこもっていないさま、ということです。声に抑揚がない=感情に変化がない=冷静=冷たい、というところでしょうか。逆から言うと、冷たい人は感情をあまり変化させず声の抑揚も乏しいので、典型的な冷たい人が出すような抑揚のない声が冷たい声、というような連想になるのでしょう。 そう考えると明るい声や暗い声、軽い声、重い声も合点がいきます。明るい声の定義って特にないようですが、典型的な性格が明るい人がよく出しそうな声が明るい声、ということになりそうです。こういう人はたぶんリラックスしていながらテンションが高いイメージですから、声が高くて声量があり、声道が広くなっているのでよく通る声が出ると思います。このあたりが明るい声じゃないでしょうか。重い声は重い性格というのはないでしょうから重々しい態度の人でしょうか。落ち着いていてテンションは低く抑えられた感じのイメージですから、声は低く抑揚に乏しい声というところでしょうか。その他の暗い声・軽い声なども性格がそのような人がよく出しそうな声ということでよさそうです。 一方、綺麗な声、というのはよく言われますが、こちらは典型的な綺麗な人が出す声が綺麗な声、ではないようです。なぜなら綺麗な人といっても様々で、これといった声のイメージはありません。そもそも容姿と声には関連はないのです。綺麗な声というのは多分、声に気息声といわれるかすれ声の成分や粗ぞう声といわれるガラガラ声の成分などが混じっていない声、要するに余分な雑音の混じっていない声が綺麗な声だと思います。雑音がなくてスッキリ聴こえるので綺麗、というところでしょうか。上が学習によるものなのに比べてこっちは純粋に聴覚的と言えそうですね。 さて、では透明感のある声とは何でしょう? 始めの例で言えば透明感のある人の声、ということになるでしょうが、しかしこの透明感のある人というのがちょっとはっきりしません。恐らくどの色も示していないので透明、ということで、つまりまだ染まっていない=キャラクターが定まっていない未成長な状態、もしくはそのような状態のままで成長した少年少女のような印象の人ということでしょうか。そうなると声は何でしょう? 少年少女のような声とするなら少年少女は喉頭のサイズが小さいので高めの声になります。でも高いだけで透明感があるという感じはしませんね。先程の綺麗な声のように余分な雑音が混じっていない声であると「余分がなくてクリア」というイメージから、透明感がある声と感じるかもしれません。そうなると高めで綺麗な声が透明感のある声なんでしょうか。低いと透明には感じないのでしょうか。声の大きさは関連するでしょうか。 というわけで、まだまだ謎は解けませんが、「透明感のある声」という表現が気になります。 |
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2015 06,01 10:39 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.009 2015.06.01号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ スポーツ選手の声枯れが気になります。 スポーツ選手って声が枯れている人が多いようなイメージがあります。全てのスポーツに渡ってというわけではないのですが、力士やプロレスラー、柔道の重量クラスの選手のような、持久力よりも瞬発的な筋力を要するような種目の選手に特にハスキーボイスが多いような気がします。どうしてなんでしょうか。 まず声枯れについておさらいしておくと、「声が枯れる」というのは一時的に声がしゃがれることをといいます。これは誰でもが経験することで、ほとんどが風邪の時か、長時間発声した後に起こります。 風邪で声が枯れるのは、ウィルス等により声帯に炎症が起こって声帯粘膜が腫れてしまったか、咳による強い声門閉鎖を繰り返した結果、声帯粘膜が腫れてしまったことが原因です。声帯粘膜は腫れると柔軟性が低下し、声門に隙間ができて声門閉鎖不全になります。どちらも診断名は急性喉頭炎です。 長時間の発声で枯れるのは、喉頭炎が原因のときと、筋疲労が原因のときがあります。喉頭炎の場合は上と同じで声帯が腫れてしまっています。声としては粗ぞう声というガラガラ声になることが多いようです。筋疲労の場合は声帯筋が疲れて動かなくなっているので声帯が充分閉じず気息声というかすれ声になります。回復の仕方も、喉頭炎は腫れが引かないと治らないのである程度の期間が必要です。筋疲労は休息すれば治りますので比較的早期に治ります。 しかしこれらはどの道一時的なものでいずれ元に戻ります。これがずっと続いて起こるのは「コラムその4 ハスキーボイスが気になる」でも書いたように、声帯にタコのような結節やポリープが出来てしまっている場合です。 さてそれでスポーツ選手の声枯れですが、風邪を引いているわけではないでしょう。掛け声は相撲でも柔道でもプロレスでもそこそこは掛けるでしょうが、長時間の発声というほどでもないと思います。声帯粘膜の酷使というほどにはならないのではないでしょか。少なくともカラオケの方がよっぽど声を出していると思います。となるとここにそれほどの原因はみあたらないようです。 調べてみると、実はこれらのスポーツ選手に声枯れが多いのは声帯に脂肪がついているからだそうです。体重により勝敗が左右される競技の選手は体重を増加させるために高カロリーの食事を取るそうですが、体重のコントロールは脂肪がもっとも容易であるので、結局全身に脂肪がつくことになるそうです。それで通常ではあまり脂肪がつかない声帯にも脂肪がつくので、声帯に隙間ができ声枯れのようなハスキーボイスになるというわけです。割とこもった声に聴こえるのも声道に脂肪がついて狭くなっているからですね。 ところで瞬発的な筋力を要するスポーツではよく「えい!」とか「はあっ!」とか掛け声を掛けますね。テニスとか剣道などが代表的なイメージです。これは声帯を締めるという動作(筋収縮)が、スポーツの動作をする際の筋収縮と協調することにより一層の収縮を促し目標筋のパワーを引き出せるからです。奥歯を噛みしめても同じ効果があります。ただしこの掛け声は咳による強い声門閉鎖と似たような原理ですので、喉頭炎の原因にはなりえます。注意が必要ですね。 さてこれで謎はずいぶん解けたようですが、スポーツの中には瞬発的な筋力を要するような種目ながら基本掛け声をあまり描けない種目もあります。サッカーとかはそうですよね。そしてサッカー選手はどう見てもあまり脂肪が多そうにはみえません。にも関わらず声枯れが目立つ方が結構いらっしゃいます。女子サッカー選手などは特にそうです。これはどうしてなんでしょうか。 というわけでまだまだ謎は解けません。 スポーツ選手の声枯れがまだまだ気になります。 |
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2015 05,18 08:55 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.008 2015.05.18号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 声優山寺宏一さんは声優界の第一人者で、その声は七色の声といわれるとか。七色の発声法!これは気になります。 山寺宏一さんといえば「山ちゃん」の愛称で知られ、若者から老人、シリアスからコメディ、二枚目から三枚目、熱血漢でも悪役でもと、実に多くの役の声を演じ分け、人気声優100人が選んだ本当にスゴイ声優ランキングでも第一位になったとか。役でいえば、アンパンマンのめいけんチーズからドナルドダック、エディー・マーフィーからブラッド・ピットまでという幅の広さ。業界では「困った時の山寺宏一」と言われるという話もあるそうです。 さてどうやってそんなに色々な声を出しているんでしょうか。 それについてはご本人が述べていらっしゃいます。山寺さんによると、声のこもりと息、そして高低の割合で出し分けているとのこと。つまり、声のこもり度合いをX軸、息の混じり度合いをY軸、声の高低をZ軸にして三次元グラフを描き、そのどこに位置するかで若者や老人、シリアス、コメディ、二枚目、三枚目などを出し分けているということでした。発声という捉えどころのないものを三次元グラフという数学的発想で視覚化して捉え直しているところがとっても面白く、さすがと思いました。山寺さんは同じ作品の中で何役もされることがあるそうですが、この三次元グラフが頭にあれば、正反対に位置する声などすぐにイメージできて、大変便利なことでしょう。 さて解剖学的に言うと、声がこもるのは口腔から喉頭に至る声道の狭さになります。息が混じるのは声帯の弛緩度合いです。声の高いのも声帯の過緊張度合いで決まりますから、だいたい声道と声帯の緊張・弛緩で声を出し分けていることになります。 山寺さんの理論を色々な役に当てはめて考えてみましょう。例えば高めの声を出すと若者という印象になりますが、これはまだ喉頭が成長途中で成人ほど大きくなっていないので必然的に若者は声が高めになるためです。一方息混じりでこもる感じにすると老人ぽくなりますが、これは声帯にシワが寄ってぴったり閉じなくなり息混じりになるためと、舌や口の筋力が衰え大きく動かなくなって声道が狭くなるためです。声を低めにして息混じりにするとどうでしょうか。どちらも喉頭や声帯の弛緩状態によるものですから、緊張していない=落ち着いて安定している、もしくは動じない人・余裕のある人という感じです。さしずめ二枚目といったところですね。これの息混じりを減らすとやや緊張感が増してシリアスな役どころになりそうです。反対に声を高めに息混じりもなしにすれば喉頭や声帯の緊張状態ということでテンションの高い感じになり、コメディっぽい印象になりますね。あとはそれぞれの人物像にあわせてはきはきしゃべったり、ゆっくりしゃべったり、大きい声でしゃべったりと味付けをするのでしょう。こうしてみると年齢やシリアス・コメディ、二枚目・三枚目など、このグラフで確かに出し分けられそうです。 しかし演じる役柄というのはこれだけでなく、おとなしい人、活発な人、ずる賢い人、のんびりした人などもっと多種多様あり、それらも演じ分けられていることから、実はもっと軸があるのではないでしょうか。抑揚の大小とか発話速度とか発音の正確さとか。これらも加味して考えてみるともっともっと新たな発見がありそうです。 それにしても声優さんというのは面白い仕事だと思います。顔だしの俳優さんは見た目があるので、さすがに全く違う役柄、例えば女性が男性を演じたり子供を演じたりは演出ならともかく、通常は無理があってできない場合が多いと思います。しかし声優さんは声の出し方次第で年齢・性別・国籍・種や生物無生物まで越えて演じられるのです。そう考えるととても幅の広いお仕事です。今、声優は憧れの職業ランキングの上位だそうですが、それもわかる気がします。その第一人者である山寺宏一さんはこれからどんな声を聴かせてくれるのでしょうか。 山寺宏一さんの今後の七色の発声法がとても気になります。 |
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2015 05,04 06:01 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.007 2015.05.04号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆
体型と声の関係が気になります。
私たちはなんとなく、太っている人は声が大きくて低く、痩せている人は声が小さめで高い、というイメージを持っているような気がします。他にも背のちっちゃい人は声が高そう、なんて感じもしますね。予想した声と違うとあれっと思ったりもします。体型と声って実際関係あるんでしょうか。
実は声の高さと身体的特徴(身長・体重・頚囲)の関係についてはこれまで色々な人が調べています。ところがその結果は、少し関係があるというものから、ほとんど関係ないというものまでばらついていて、今ひとつはっきりしません。結局、明らかな関係はないというところなのだと思います。私たちがなんとなく思っているイメージは思い込み、ということになります。でもなにか納得いきません。どうして関係がはっきりしないんでしょうか。
高い声というのは声帯がピンと張られた状態で出ます。反対に声帯を緩めると声は低くなります。ギターなどで弦をピンと張ると高くなり緩めると低くなるのと同じですね。そしてもうひとつ、声帯そのもののサイズが小さいと声は高くなります。反対にサイズが大きくなると声は低くなります。声帯が大きいと声帯振動の振り幅が大きくなるので、空気振動が粗くなり音が低くなるのです。
つまり声の高さには喉頭の大きさが関係します。どの人でも喉頭のサイズが同じ訳ではありません。喉頭のサイズが大きい人も小さい人もいます。大柄で身体のパーツが全て大きい人は喉頭のサイズも大きいでしょうから声は低くなるでしょう。つまり身長や体重が多いといっても、もともと大柄で甲状軟骨や輪状軟骨などの喉頭の骨格からして大きい場合と、骨格は普通ながら脂肪がついて太った、という場合では大きく違います。成人してから脂肪がついて太るのは食生活のためでしょうか。
ちなみにもし巨人がいたとしたら声帯も巨大でしょうから、声は出ても恐ろしく低くなると思います。ひょっとすると低周波すぎて人間の耳では聞こえないかも知れません。そう考えるとよくある巨人が出てきて大声で喋るなんてSF映画とかはちょっと嘘っぽくなっちゃいますね。
ところで評論家の岡田斗司夫さんが、レコーディング・ダイエットという方法を開発・実践されて、120kg以上あった体重を60数kgにまで落とされたことがありました。その本はベストセラーになりましたのでご記憶の方もあると思いますが、岡田さんは高い声でした。ということはおそらく喉頭のサイズは大きくないと思います。そこからすると岡田さんはもともと骨格から大きかったわけでなく、成人に近いある時期から太られて120kgにもなったのではないかと。ですからダイエットもあれだけ成功したのではないか、なんて考えられますね。もちろんこれは思考のお遊びで、喉頭だけスモールサイズの方も当然ありえます。
というふうに、太っているけど声は低くないというような人に会うと、子供のころは痩せてたのかな、大人になって太ったのかな、ああきっと仕事のストレスだ、などとかつい余計なことを考えてしまいます。体型と声の関係が気になります。
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2015 04,20 06:01 |
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◆気になるボイスコラム◆ vol.006 2015.04.20号より
☆声にこだわりを持つ筆者がこだわってお届けします☆ 集団アイドル歌手の声が気になります。 典型的に言えば今ならAK○ということになりますが、なんであんなに大勢で一緒に歌うんでしょうか。だってあんなに大勢でいると誰が誰の声かわからないし、前列中央以外は顔もよく見えないし、衣装代やらコストもかかるじゃないですか。もちろん迫力はあるでしょうが、それにしてもあそこまで多人数にしなくてもいいと思います。大勢で歌うと何かいいことがあるんでしょうか。 プロデュース面などはよく分かりませんが、ともかくも声についていえば色々な意味で補い合えるというメリットはあると思います。一番は歌う時の音程の安定性でしょう。地声のメロディで音を外してしまうほど酷いことはさすがにないでしょうが、地声近くから急に高い音を出すような旋律のところではやっぱり音を外しやすいものです。急な高音発声の歌はアイドルだけでなくベテランの有名歌手でも難しいようで、聴いていると一気に高い音を出さず、半音下がった音から入ったり、声量を下げて入って徐々に上げたり、一拍遅れて入ったり、ハスキー音にして入ったりといった感じで、思ったより多くの歌手がストレートに高音を出さず何がしかの工夫を入れています。一度注目して聴いてみると興味深いでしょう。まあベテランはそれを味のようにみせているわけで、それはそれで芸なのですが、つまりそれほど高音発声をコントロールするのは難しいということです。 高い音を出す時には喉頭の輪状甲状関節を動かして声帯をひっぱりピンと張らせることで高い音を実現させるわけですが、上手にやらないとひっぱりすぎちゃいますし、さらに輪状甲状関節を動かす筋肉と一緒に他の喉の筋肉にも力を入れてしまって、喉頭前庭という声帯の上の空間が狭くなり、声がくぐもったり苦しそうな声になったりしてしまいます。このあたりも歌を聴かせるには望ましくない要素です。大体のサビは高音の旋律になっていますが、せっかくのサビの歌声が小さくては聴こえませんし盛り上がりません。綺麗なメロディが苦しそうな歌声で聴こえてきたら感動するより興ざめですよね。うまく声を出すためにはこの微妙な調節を瞬時にやらないといけないのです。 というわけでひとりきりでは音が外れたり声が小さくなったり苦しそうになったりして聞き苦しくなってしまいがちな高音発声も、大勢いれば誰かがその音を適切に出してくれて補ってもらえるので万事OKというものです。分業制というわけですね。まだ味にみせるテクニックを持たないアイドルには格好の方法です。 いやそんなレベルは求めてないよ、アイドルは下手なのがいいんだ、それが味だ、という方もいらっしゃるかもしれませんが、物には限度があります。私は一度何かのネット生番組で二日前デビューしたばかり、という集団アイドルグループの歌を聴いたのですが、ちょっと人前に出すレベルでないというか、これをまた聴きたいという人がいるのかという感じでした。それ以来、私はAK○は大したものだと思うようになったのです。少なくとも不快にならないような配慮がされていますからね。その証拠にその某グループは全くメジャーになることなく消えてしまいました。下手を味にするようでは一部のマニアには受けてもメジャーになることはとても無理でしょう。見た目だけではどうにもならない壁があるのです。つまり集団でも全員発声がダメではどうにもならず、比較的声が出せて他の人のカバーができる人がある程度いないと成立しないと思います。 さてAK○の成功以来、そのシェアを奪おうと集団アイドルは次から次へと生まれては消えていっているらしいですが、私は聞く機会があるとこれは残りそうな声か消えそうな声か、密かに賭けをしています。アイドルは声だけではないでしょうが、少なくとも一定のレベルの声は必要というのが私の仮説です。果たして証明されるかどうか。 集団アイドル歌手の声がとっても気になります。 |
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